相続税節税・養子縁組事件 
                 平成29年1月31日最高裁判例 

 この事件は、相続税の節税を目的とした養子縁組が有効か争われた事件です。

 最高裁は、無効とした高裁判決を破棄して、有効と判断しました。

 最高裁判決文の全文を掲示しました。

  主 文

 原判決を破棄する。被上告人らの控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

 理 由

 上告代理人野原薫の上告受理申立て理由第4について1原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 被上告人X1は亡Aの長女であり,被上告人X2はAの二女である。上告人は,平成23年▲月,Aの長男であるBとその妻であるCとの間の長男と して出生した。 Aは,平成24年3月に妻と死別した。 (2) Aは,平成24年4月,B,C及び上告人と共にAの自宅を訪れた税理士 等から,上告人をAの養子とした場合に遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受けた。 その後,養子となる上告人の親権者としてB及びCが,養親となる者としてA が,証人としてAの弟夫婦が,それぞれ署名押印して,養子縁組届に係る届書が作 成され,平成24年▲月▲日,世田谷区長に提出された。 2 本件は,被上告人らが,上告人に対して,本件養子縁組は縁組をする意思を 欠くものであると主張して,その無効確認を求める事案である。 3 原審は,本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした - 2 - 上で,かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないと き」に当たるとして,被上告人らの請求を認容した。 4 しかしながら,民法802条1号の解釈に関する原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となると ころ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。 そして,前記事実関係の下においては,本件養子縁組について,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない5 以上によれば,被上告人らの請求を認容した原審の判断には,判決に影響を 及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れ ない。そして,以上説示したところによれば,被上告人らの請求は理由がなく,こ れを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人らの控訴を棄却すべきであ る。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 

 

相続税の基礎控除

 3千万円+600万円×法定相続人の数

 法定相続人の数

  1. 1 相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。
  2. 2 法定相続人のなかに養子がいる場合の法定相続人の数は、次のとおりとなります。
  3.  (1) 被相続人に実子がいる場合は、養子のうち1人までを法定相続人に含めます。  (2) 被相続人に実子がいない場合は、養子のうち2人までを法定相続人に含めます。