家族に支払ったお金は必要経費になるか
(税理士妻事件) 
                 平成17年7月5日最高裁判例 

 この事件は、弁護士である夫が、独立した別の事務所で税理士業務を行なっている妻に税理士報酬等を支払い、その報酬等を必要経費に算入して申告したところ、課税庁は所得税法第56条の規定を適用し、必要経費として認められないとして、争ったものです。

 最高裁は、必要経費として認められないと判断しました。

 

所得税法第56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)

 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。

 

 課税要件は、対価支払の対象が「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族」であること、対価支払の事由が「居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したこと、その他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」の2つになります。この条文は戦後間もない時期に制定されたものであり、家族間での恣意的な租税回避行為を禁止するためのものでした。

 

 最高裁は、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者とは別に事業を営む場合であっても、そのことを理由に所得税法56条の適用を否定することはできず、同条の要件を満たす限りその適用があるというべきである。」と判断されました。

 従属的立場か独立した別個の事業であるかは判断されず、2つの課税要件に該当すれば必要経費に算入しないものとの判断です。

 

 この税理士報酬額は適正なものであり、立法趣旨・背景である租税回避行為にならないことや、事実婚であれば必要経費なることを考えると疑問は生じますが、最高裁判例の変更や法律改正がない限り、実務者として選択の余地がありません。