相続した預金は遺産分割の対象か

 11月に名古屋税理士会での指定研修があり、その中で弁護士でもある大阪大学名誉教授の山下眞弘教授の興味深いお話がありました。現在、遺産分割の対象とされていない「可分債権」である預貯金(預貯金払戻請求権)について、最高裁の判断が変更され、遺産分割の対象となる可能性があるということです。

 ただし、どちらにせよ相続税の対象となる財産となります。

 相続財産

 民法898条(共同相続の効力)相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

 相続が開始するとその相続財産は遺産分割により各相続人の具体的な相続分が確定するまでは、共有されるという原則です。

 その例外が、可分債権で、その代表例が金銭債権である預貯金となります。理論上は、他の相続人とは関係なく、自分の法定相続分の範囲内であれば、預貯金の引き出しができることになります。

★最高裁 平成16年4月20日

 「相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではないと解される(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日 第一小法廷判決・民集8巻4号819頁,前掲大法廷判決参照)。」

 裁判所ホームページに全文がありますので、リンクしました。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/575/062575_hanrei.pdf

 山下教授のお話は、上記の最高裁の判断が変わり、預貯金も相続財産となるいうことでした。

 確かに、相続人が勝手に引き出しをしていれば、後日の紛争の種となる可能性は高いですね。

 銀行実務の経験はありませんので、確定的には言えませんが、銀行実務検定である相続アドバイザー試験において、原則は相続分の範囲内での払戻請求には応じる必要がある(応じないと遅延利息が発生)。しかしながら実務上の取り扱いは紛争回避のため、相続人全員の同意がない限り、一人からの払戻請求には応じていないのが大半であるとありました。

 勝手には引き出しはできないようですが、判例との整合性が取れてはいないので、変更されれれば、階差は無くなると思われます。

★最高裁 平成28年12月19日

 最高裁大法廷で本日判断が示されました。

 内容については、山下名誉教授のご発言のとおり、「預貯金は法定相続の割合で分割されるものではなく、遺産分割協議などにより取り分を決められる遺産分割の対象となる。」との判断がされ、審理を大阪高裁に差し戻しました。

 この裁判は、被相続人の預金約3,800万円を巡り相続人2人が争ったものです。相続人のうちの1人は生前贈与5,500万円を受けており、もう1人(X)には生前贈与は無かったことから、Xが預金の全額をXが受けるべきと主張して争いました。1審・2審とも判例に従い(下級審は最高裁判例に従う規定があるので)半分の1,900万円ずつの分配とされましたが、今回の差し戻しにより、Xが全額受け取れる可能性が大きくなりました。

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