弁護士業の必要経費
(弁護士会役員の交際費等)

        平成24年9月19日東京高等裁判所

 この事件は、仙台弁護士会会長や日弁連副会長等の役員を務めた弁護士が、これらの役員として活動した懇親会や役員選挙立候補費用等について必要経費性を争ったものです。

 最高裁判所は不受理としたため、東京高裁で確定しています。なお、弁護士会や税理士会は強制加入(加入しないと業務ができない)ですので、強制加入ではない医師会や任意の団体までも同一視することには、疑問が残りますが、税理士としては会の目的や顧客の状況等を的確に把握して、裁判所の解釈をおおいに使おうと考えます。

 

判示事項

1 事業所得の金額の計算上必要経費が総収入金額から控除されることの趣旨や所得税法の文言に照らすと、ある支出が事業所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、当該支出が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。

2 所得税法施行令96条1号が、家事関連費のうち必要経費に算入することができるものについて、経費の主たる部分が「事業所得を‥生ずべき業務の遂行上必要」であることを要すると規定している上、ある支出が業務の遂行上必要なものであれば、その業務と関連するものでもあるというべきである。

3 控訴人の弁護士会等の役員等としての活動が控訴人の「事業所得を生ずべき業務」に該当しないからといって、その活動に要した費用が控訴人の弁護士としての事業所得の必要経費に算入することができないというものではない。なぜなら、控訴人が弁護士会等の役員等として行った活動に要した費用であっても、これが、控訴人が弁護士として行う事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出であれば、その事業所得の一般対応の必要経費に該当するということができるからである。

4 弁護士会等の活動は、弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであり、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであるということができるから、弁護士が人格の異なる弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても、弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば、その弁護士としての事業所得の一般対応の必要経費に該当すると解するのが相当である。

5 弁護士会等の目的やその活動の内容からすれば、弁護士会等の役員等が、①所属する弁護士会等又は他の弁護士会等の公式行事後に催される懇親会等、②弁護士会等の業務に関係する他の団体との協議会後に催される懇親会等に出席する場合であって、その費用の額が過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である。

6 また、弁護士会等の役員等が、③自らが構成員である弁護士会等の機関である会議体の会議後に、その構成員に参加を呼び掛けて催される懇親会等、④弁護士会等の執行部の一員として、その職員や、会務の執行に必要な事務処理をすることを目的とする委員会を構成する委員に参加を呼び掛けて催される懇親会等に出席することは、それらの会議体や弁護士会等の執行部の円滑な運営に資するものであるから、これらの懇親会等が特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事に相当するものであって、その費用の額も過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である。

7 弁護士が弁護士会等の役員に立候補した際の活動に要した費用のうち、立候補するために不可欠な費用であれば、その弁護士の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出に該当するが、その余の費用については、これに該当しないと解するのが相当である。                    

◎裁判所ホームページに全文も出ていますので、ご興味のある方はご確認ください。

 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=83156

 判示事項

 弁護士業を営み,仙台弁護士会会長や日本弁護士連合会副会長等の役員を務めた者が,これらの役員としての活動に伴い支出した懇親会費等を事業所得の金額の計算上必要経費に算入し,また,消費税及び地方消費税の額の計算上課税仕入れに該当するとしてした確定申告に対し,前記懇親会費等は所得税法37条1項に規定する必要経費に算入することができず,また,消費税法2条1項12号に規定する課税仕入れには該当しないとしてされた更正処分の一部取消請求が,一部認容された事例

 

 裁判要旨

 弁護士業を営み,仙台弁護士会会長や日本弁護士連合会副会長等の役員を務めた者が,これらの役員としての活動に伴い支出した懇親会費等を事業所得の金額の計算上必要経費に算入し,また,消費税及び地方消費税の額の計算上課税仕入れに該当するとしてした確定申告に対し,前記懇親会費等については所得税法37条1項に規定する必要経費に算入することができず,また,消費税法2条1項12号に規定する課税仕入れには該当しないとしてされた更正処分の一部取消請求につき,弁護士会等の活動は,弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであり,弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに,会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであるから,弁護士が人格の異なる弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても,弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば,弁護士としての事業所得の一般対応の必要経費及び消費税法2条1項12号に規定する課税仕入れに該当すると解するのが相当であるとした上,その額が過大とはいえない一部の懇親会費等は,社会通念上弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったとして,前記請求を一部認容した事例